2026/10/09
自分自身を映す鏡
Ken Yukuhiro
マジック:ザ・ギャザリング
Display Your Memories

カードには「思い出」が宿る。
調整の苦労。大会会場の風景。対戦相手との会話。ゲームの履歴。友人たちとの談笑。
そして何より、勝利の瞬間。カードを見るたびに、過去に経験した場面ごとのエピソードや、そのときに抱いた鮮烈な感情が、持ち主にとってかけがえのないものとして、ありありと想起されるものだ。
そうした思い出を、もしも形にすることができたなら。それはどんな形をしているだろうか?
本企画「Display Your Memories」は、さまざまなTCGのプレイヤーに思い出の5枚を選んでもらい、その実物をお預かりしてPSAでグレーディングし、お返ししたうえで、ショーケースに収めていただきつつ、その5枚にまつわる思い出を語ってもらう……というものだ。
今回はTCG『マジック:ザ・ギャザリング』のプレイヤー、行弘賢(ゆくひろけん)氏にお越しいただいた。
はたして行弘は、どのような思い出を選んだのか。
■思い出のカードとの再会
──本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
「マジックを20年以上遊んでいまして、プロとしては18年ほど活動しております、行弘賢と申します。よろしくお願いします。」
──それでは、お預かりしたカードをお返しいたします。
「おぉ~……良いですね。思ったより高いな、(グレーディングの)点数が。ちょっと嬉しいですね。」
──ぜひ、ショーケースに収めてみてください。
「どこにしようかな……こうかな? んー……まあちょっと、色順的にはこうかな。」
そうして5枚のカードを入れ終わり、行弘の思い出がついに形となった。

──こちらを手に取っていただいて、実際どういったお気持ちでしょうか?
「こういう機会がないと、カードがショーケースに入ることってないので、こうやって並んでいると昔の思い出がフラッシュバックしてきて、今回機会をいただけてすごく良かったなという感じです。」
──こちらの5枚は、どういったコンセプトで選ばれたのでしょうか?
「やっぱり大会で活躍したカードを中心に選びました。思い出があるカードを基本的には飾りたいなと思って。ただ、中には個人的に好きという理由で選んだものもあります。」
行弘が選んだカードの多くは、特別レアリティが高いわけでもない、言ってしまえばありふれたカードに過ぎない。だがそこには、行弘だからこそ見出すことができた特別な価値があるのだ。

■思い出の1枚目:《信仰無き物あさり》

──時系列でいけば、1枚目は行弘さんが初めてプロツアーでトップ8に入賞された《信仰無き物あさり》でしょうか。ただ、こちらはダブルミーニングですよね?
「おぉ~、よくわかりましたね。実は僕は《信仰無き物あさり》を使って、世界大会で2度トップ8に入っていまして。1回目は初めてのトップ8で、『人間リアニ』で使用したとき。もう一つは、僕の代名詞みたいになっているところもあるんですけど、『ホロウワン』っていうデッキで。思い入れのあるカードを選ぶときに、それぞれのデッキから1枚ずつ選びたいなと思ったんですけど、それぞれのデッキを代表するカードもありつつ、どちらにも関わりが深いカードとなったときに、これなら1枚で表現できて良いんじゃないかなと。」
──ラベルのグレード表記に『MK』(マーク)とありますよね。スタンプが押されているカードを、あえて選ばれたんですね。
※「MK」は、スタンプや書き込みなどの跡があることを示すPSAのラベル表記。このスタンプは、プロツアーのドラフト……その場でパックを開封して即席でデッキを作るルール……において、審判があらかじめパックを開封して中身を確認した際に押されるもの。転じて、その大会に参加した証にもなる
「そうですね。どれがいいかなと考えたときに、『何なら一番使っているやつにしよう』と。『スタンプされているから』という理由で今まで使ってきて、かなりボロボロだったんですけど、逆にボロボロなカードってこういう機会じゃないと飾ることがないし、そこもちょっと良いのかなと。あえてこれを選びました。」
──それだけ思い出が詰まっている、ということでしょうか?
「そうですね。ずっと使ってきたカードなので、ここで飾っちゃうともう使う機会はなくなるわけですけど、ご苦労様というか、『今までありがとう』っていう気持ちを込めて選びました。」
2012年と2018年。奇しくもどちらもスペインの地で、しかも6年越しに同じカードを使い、行弘はプロツアーでトップ8入賞を果たした。
《信仰無き物あさり》は手札の取捨選択を行えるカード。しかも、使った後に墓地からもう一度使える能力もあり、行弘のキャリアの中でも最も多く使ってきたカードの1枚と言える。それはすなわち、それだけの回数の取捨選択を行ってきたということだ。
積み上げた選択の数々が、今の行弘を形作っている。ボロボロでも構わない。スタンプは傷や欠陥ではなく、その事実をより強く思い起こさせる象徴だ。そんな唯一無二の1枚が、行弘の思い出に凛々しく収まった。
■思い出の2枚目:《復活の声》

──こちらはプロツアーで活躍したカードというわけではなさそうですが、どういった理由で選ばれたのでしょうか?
「そうですね、これはさっき言った『個人的に好きなカード』のうちの1枚なんです。僕はそもそも《復活の声》のデザインがすごく好きで、このカードを強く使えるなら常に使いたいくらいなんですけど、実は海外の大会でこのカードを使ってトップ8に入っていて、それがメキシコの大会だったんです。そのときに入手した1枚で、言語はスペイン語だと思うんですけど、確か現地で言語トレード(日本語版の《復活の声》との交換)をお願いされて手に入れたカードだったと思います。マジックって世界各地で大会があって、メキシコっていう地球の裏側みたいなところまで行って大会に出るという当時の情熱が、このスペイン語の《復活の声》には込められていて、あらゆる思い出が詰まった1枚ですね。」
──カードとしても好きだし、さまざまな旅の思い出もよみがえるわけですね。
「そうなりますね。」
「カードの好き嫌い」は、カードゲーマーなら当然誰にでもあるものだ。一方で、プロプレイヤーとして活動していくなら、本来は切り捨てなければならない感情でもある。
だが、行弘にとってはそもそも「楽しく続けられる」ことが活動の大前提だ。「好き」をないがしろにすれば、情熱を失う。ゆえに行弘は、「好きなカードを強く使えるデッキがあるなら使う」という両立の道を選んだ。結果として行弘は、世界を旅するほどに、マジックというゲームへの情熱を保ち続けることができたのだ。
異国の街。異国の言語。異国のプレイヤー。出会ってきたすべての光景が、今の行弘を形作っている。そんな当時の情熱を象徴する1枚が、行弘の思い出を温かく照らした。
■思い出の3枚目:《ホネツツキ》

──こちらはアメリカで開催されたプロツアーで、トップ8に入られたときのカードですね。
「はい。すごく名誉なことなんですけど、この大会でこのカードを使っていたのは僕だけだったんですよ。400人近くいる全プレイヤーの中で、採用していたのが僕だけで。『一人しか使っていないのにトップ8に入っているカード』って普通は全然なくて。僕はデッキビルダーとしてやってきてはいますけど、そこまでオリジナリティがあるという状況はなかなかなかったので、自分がデッキを組んできた中でも誇れることだなと。このデッキのキーカードはこのカードではないんですけど、オリジナリティがある要素が僕らしいなと思ったので選びました。」
インターネットが発達し、結果を残したデッキリストは瞬く間に全世界へと共有されるようになった。だが行弘はデッキビルダーとして、膨大なカードプールの中から、存在するかもわからない自分だけの答えを発掘する選択をした。気の遠くなるような作業だ。見出したカードは、同じ大会に出場する友人からすら馬鹿にされかねないほどマニアックなカードだった。それでも行弘は、結果をもって自らの正しさを証明したのだ。
世界とも勝負できるオリジナリティがあるという自負が、今の行弘を形作っている。決してうぬぼれではない、存在の証明を叫ぶ咆哮のごとき1枚が、行弘の思い出に力強く銘を刻んだ。
■思い出の4枚目:《自爆》

──そして、残る4枚目と5枚目はセットで選ばれていると思いますが、昨年プロツアーで優勝された際のカードですよね。
「そうですね。まず《自爆》は、プロツアーという世界大会で優勝を決めた瞬間にプレイしたカードでもあり、同じデッキでも当時大会で使っている人の方が珍しかったカードです。チームメイトが見つけてくれたカードなので、僕個人がどうというわけではないんですけど、やっぱりすごく思い出深いですね。直近ということもありますけど、世界大会で優勝したこともなかったので、ひときわ特別な、象徴的なカードかなと。」
プロツアー優勝までの道のりは、決して順風満帆ではなかった。2023年から2024年の前半にかけて、行弘は成績が振るわず、長年継続的に得ていたプロツアーへの参加権利が途切れる事態に陥ってしまった。それはプロとしての活動の危機を意味していた。だが行弘は自分自身を見つめ直し、新しいコミュニティに参加して練習の方法も刷新した。長年かけて確立した、自分に合うやり方を手放し、ゼロから新しいやり方に挑戦する苦労は並大抵のものではない。しかしその努力が実り、2024年半ばにはプロツアーに復帰。それどころか、復帰して間もなく立て続けに好成績を残した。そして2025年、ついに行弘はラスベガスで開かれたプロツアーで、長年のプロキャリアで初めての優勝を果たしたのだ。
出してきた結果におごらず、必要とあらば自分自身すらも疑う謙虚さが、今の行弘を形作っている。一度すべてを捨てたからこそたどり着けた栄光の1枚が、行弘の思い出に決して色あせない輝きを与えた。
■思い出の5枚目:《親衛隊長、ギルガメッシュ》

──最後は、こちらも同じプロツアーでの優勝を象徴する1枚かと思いますが、2枚選ばれたのは、やはりそれだけ特別ということでしょうか?
「そうですね。ただ実は僕、世界大会のドラフト2回で、どちらも初手でこのカードを引いたんです。」
※ドラフトは、その場でパックを開封し、1枚選んでは残りを隣のプレイヤーに回す手順を繰り返して、即席のデッキを組むルール。「初手」は自分で開封したパックから最初に選ぶ1枚のことで、どのカードが入っているかは開けてみるまでわからない
「《自爆》とギルガメッシュには原作のFFのストーリーラインもあって、カードとしてのつながりもあって……『なんかできすぎてないか?』ってくらいに、大会を通して自分が好きなコンテンツがそのまま自分に返ってきたというか、『そんなことある?』みたいな感じで。僕は『ファイナルファンタジーVが一番好き』というのをあらかじめ言っていたんですけど、Vのキャラクターとエピソードがマジックの大会で自分のもとにやってきて、好きなコンテンツで最上の結果が出たというので選びました。」
「ドラフトでピックしたカードそのものを飾ってもいいかなと思ったんですけど、全体的なラインナップがコモンやアンコモンに寄ってしまったので、せっかくだからコレクターブースターから出た良いバージョンのものを飾りたいなということで、こちらにしました。」
それは、カードを真剣に選び続けてきた行弘が、カードに選ばれた瞬間だった。
一度でもTCGのパックを剥いたことがある者ならわかるだろう……特定のカードを狙って引き当てることなど不可能だと。だが行弘は、確率を超えた必然の巡り合わせによってそれを引き当てた。カードゲームに真摯に向き合い続けてきたからこそ、最良の運を最高の形で味方につけることができたのだ……それはさながら、RPGの主人公のように。
カードゲームとともに歩み続け、ついに手にした奇跡が、今の行弘を形作っている。積み重ねた選択。出会ってきた光景。オリジナリティへの自負。それでもおごらない謙虚さ。それらすべてが乗った1枚が、行弘の思い出を締めくくった。
■思い出を形にしてみて

──改めて5枚を飾っていただいて、新たに立ち上がってくる思いなどはありますか?
「カードをコレクションしたり飾ったりということを、普段からそこまでやっているわけではないので、こういう機会がなければ、カードを飾ってみること自体に興味を持たなかったと思うんです。でも実際に昔のカードを並べてみると、『これが部屋にあったらすごくモチベーションが上がるだろうな』と思ったし、『あれ、これも飾りたいな』ってなったので、このサービスにすごく興味が湧きました。今回こういう機会をいただいて関わってみて、いろいろやってみたいなと感じましたね。」
──ありがとうございました。
カードを選ぶということは、人生を選ぶことにも等しい。
行弘はその瞬間瞬間の選択を、後悔が残らないよう全力で遂行し、ついには奇跡のような結果にまでたどり着いた。その記憶をいつでも思い起こせるのならば、選択によってつまずいてしまったときや、立ち止まってしまったときであっても、きっと再び歩き出すための道標となるだろう。
そう、だから。
カードには「思い出」が宿る。カードとともに歩んだ日々は、人生の転換点となりえた機会の連続。そして、それこそが。
誇りを持てる今の自分自身を映す鏡となるのだ。
インタビュアー/ライター:まつがん(伊藤敦)




