2026/10/02

後世へと残すタイムカプセル

Shota Yasooka

マジック:ザ・ギャザリング

Display Your Memories

 カードには「思い出」が宿る。
 調整の苦労。大会会場の風景。対戦相手との会話。ゲームの履歴。友人たちとの談笑。
 そして何より、勝利の瞬間。カードを見るたびに、過去に経験した場面ごとのエピソードや、そのときに抱いた鮮烈な感情が、持ち主にとってかけがえのないものとして、ありありと想起されるものだ。
 そうした思い出を、もしも形にすることができたなら。それはどんな形をしているだろうか?


 本企画「Display Your Memories」は、さまざまなTCGのプレイヤーに思い出の5枚を選んでもらい、その実物をお預かりしてPSAでグレーディングし、お返ししたうえで、ショーケースに収めていただきつつ、その5枚にまつわる思い出を語ってもらう……というものだ。


 今回はTCG『マジック:ザ・ギャザリング』のプレイヤー、八十岡翔太(やそおかしょうた)氏にお越しいただいた。
 はたして八十岡は、どのような思い出を選んだのか。


■思い出のカードとの再会

──本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いします。


「マジック:ザ・ギャザリングのプロプレイヤーをやっている八十岡翔太です。マジック歴は今年で約30年になります。基本的にはプロツアーなど海外の大型大会には毎回出ていて、競技的に活動しています。」


──それでは、お預かりしたカードをお返しいたします。



「おぉ、すごい、きれいに……反応難しいですね(笑)いやーでも、思ったより状態とかマシだなという。でも良いですね、こういうふうにきれいにパッケージされると。」


──ぜひ、ショーケースに収めてみてください。


「順番どうしよう……」


 そうして5枚のカードを入れ終わり、八十岡の思い出がついに形となった。



──こちらを手に取っていただいて、実際どういったお気持ちでしょうか?


「結構今までの自分のマジックの歴史の中からある程度順番に選んでいるので、思い出深いというか、カードを見ると昔のイベントだったり大会の結果を思い出せて、そういう意味では『こんなこともあったなー』という記憶とともによみがえってくるというか、感動というよりかは……何というか憂愁さというか、そういうのがありますね。」


──こちらの5枚を選ぶにあたって、どのような趣旨で選ばれたのでしょうか?


「5枚選ぶのがすごい難しくて、思い出があるカードで言ったら時代ごとに何かしらあるんですけど、その中の5枚ということで、やっぱり自分の転機になったカードだったり思い出があるカードと、優勝したりとか大きなイベントで活躍したカードを持ってきました。」


──ちなみに、この並びに順番はあるんでしょうか?


「いや、クリーチャーが1体しかいないんでそれを真ん中に持ってきて、土地・土地・インスタント・インスタントで対称になるので見栄えがいいかなと(笑)」


 30年。それは八十岡にとっては半生どころか、人生の3分の2をも占める付き合いということだ。苦しみも喜びも、すべてがカードとともにあった。八十岡は跳ぶ。記憶に強く残る瞬間へと。


■思い出の1枚目:《奔流の機械巨人》


──こちらはプロツアー『カラデシュ』で優勝された思い出のカードだと思いますが、やはり最も特別なカードということになるんでしょうか?


「そうですね……いや、この中では低い方なんですけど、すごく使っていたわけではなくて。一発このカードで優勝したって思い出がすごく強いんですけど、そこまで機械巨人でめっちゃ勝ったというよりは、そのイベントで勝ったということなんですけど、やっぱり念願の個人プロツアー初優勝ということで選ばせてもらいました。」


 2006年、3人チーム戦での世界大会優勝。そこから八十岡のプロキャリアは始まった。世界各地の大会を行脚する日々。その果てに、その年の最優秀プレイヤーの称号を獲得した。だが、そこからが長かった。約10年が経って2015年にようやく世界大会で再びトップ8入りするも、結果は惜しくも準優勝。さらにはそれがきっかけでプレイヤーとして最高の称号の一つである殿堂入りの栄誉に浴した。足りないのは世界大会での実績だけで、この時点で世界の誰もが、八十岡のことをすばらしいプレイヤーであると認めていた。それでも、まだ個人でのタイトル獲得だけがなかった。


 だが、マジックを始めてから約20年が経った2016年、ホノルルの地でついに個人戦で念願の初優勝を果たしたのだ。決勝戦はマジックで最も難しい対戦の一つであるコントロールデッキ同士の対決。それを八十岡は見事なプレイングで制した。機械巨人は当時の最新セットを象徴する1枚で、そのデッキのキーカードだった。長く使ったカードというわけではない。それでも20年越しの思いを成就させた転機の1枚。そのカードが、思い出をひときわきらめかせた。


■思い出の2枚目:《変わり谷》


──次は、土地についてです。土地(マジックにおいて呪文を使うためのエネルギーを生むカード)が2枚入っているのはマジックならではですよね。《変わり谷》は、どういった趣旨で選ばれたのでしょうか?


「マジックにはクリーチャーになれる土地があって、各種結構好きなんですけど、その中でも一番使ってたカードになってまして。結構スタンダードだったりとか、モダンだったり、エクステンデッド、パイオニア、色んなところで使う機会があって、結構成績残せたりとか、このカードがスタンダードにあったときに勝率がすごい良かったりもしたので、自分の活躍にすごい助けになったというか、相棒と言ってもいいくらい使ってきたカードということで、《変わり谷》はもう真っ先に決まりました。5枚の中でも一番ですね。」


 マジックの歴史全体から見ても、八十岡ほど長く安定して勝ち続けている日本人プレイヤーは存在しないだろう。だが一体、八十岡は勝率の差をどこでつけてきたのか。その秘密が《変わり谷》に代表される「攻撃できる土地」の存在だ。その中でも最軽量かつデッキの色を選ばない《変わり谷》を使うことで、八十岡は無数の際どいゲームを勝利してきた。2011年の神戸で。2013年のダブリンで。2014年のシンガポールや静岡、そしてバレンシアや神戸で……八十岡が結果を残すとき、そこには常にではないにせよ《変わり谷》の存在があった。実質的に、八十岡と一緒に最も多くの旅をしたカードと言えるだろう。


 しかも、ほかのプレイヤーなら投入を考えないようなデッキにも、このカードを採用することが多かった。だが簡単なカードではない。デッキに入れるか入れないか、入れたとして何枚入れるか。さらにはゲーム中もいつ攻撃するかなど、微細な判断が常に求められる。裏を返せば、それを使いこなせることは、八十岡がマジックというゲームを誰よりも正確に理解していた証拠と言えるかもしれない。もとより「Blazing Speed」と称されるほどにプレイが速いことで知られる八十岡の、マジックへの深い理解を示す1枚。そのカードが、思い出に唯一無二の輝きを与えた。


■思い出の3枚目:《湿った墓》


──続いてもう1枚の土地ですね。こちらは八十岡さんの哲学のようなものを表しているのかな、という勝手な想像だったのですが……


「哲学(笑)いやでも本当に僕は青黒がすごい好きで、『ラヴニカ:ギルドの都』でこのサイクルが出てからかなり使っていて。それこそエクステンデッドだったりモダンの大会でとにかく使いまくったせいで、結構ボロボロになってしまいました。《変わり谷》よりも使用頻度で言ったら多いカードで、人生で使った基本地形以外の土地では一番多いんじゃないかな。ちょっと使いすぎて、柔らかくなって芯が抜けてたりするよくある状態なんですけど、思ったより状態が良くて(グレーディングの数字が)4もついてくれて。2くらいかなと思ってたんですけど(笑)線が入ってるくらい使ってたんで、そういう意味で思い出というか、やっぱりパートナーに近いところはあるかな。」


──青黒は、マジックのほかのカラーリングと比べてどういった部分が好きなんでしょうか?


「対戦相手に干渉する手段として一番強い色って感じですね。押しつけ、自分から何かしら能動的にするよりは、青の打ち消しだったり黒の除去だったりとかが相手に対して何かするっていうのがマジックの面白い部分で好きっていうのと、青いデッキ使いだしてから勝てるようになったとか。色んな意味で青黒っていうのは思い出深い色ですね。」


 マジックには5つの色があり、2色ずつの組み合わせは10通りある。そのうちどの組み合わせを好み、よく使うかによって、プレイヤーの気質やマジックというゲームに対する姿勢が分類される……という考え方がある。そして八十岡の場合、本人の自認はもちろん、ほかのマジックプレイヤーの誰に聞いても「青黒」と答えるだろうというほど、青と黒の組み合わせを好んで使い続けてきた。それは、隙のない対応が可能な組み合わせだからだ。


 「どんな状況、どんなカードでも対処できる」……そんなカウンターマジックの思想は八十岡のプロとしてのプレイヤー像であり、八十岡自身もそうしたデッキを使い続けることで、高い勝率を保ってきた。いわば八十岡その人を表す色の組み合わせであり、《湿った墓》はそれを体現する1枚。そのカードが、思い出に強固な芯を与えた。


■思い出の4枚目:《謎めいた命令》


──こちらのカードは、さまざまなデッキで使われていますよね。


「もともとは『青黒フェアリー』だったり青の打ち消しが強いデッキ、青が濃いデッキで使われたカードで、フェアリーのときも活躍してグランプリでトップ8に入ったりしましたけど、それ以降でも色んなデッキで使っていて。世界選手権の決勝で戦ったときも使っていたデッキで、《永遠の証人》と一緒に使うことでループさせたり、あとはプロツアーで使った『カウンタードラン』っていうデッキがあるんですけど、緑白黒の3マナで強いドランっていうクリーチャーを出しつつ頑張って青青青出すことによってそれをバックアップするデッキだったんですけど、それもかなり好成績を残せたりしました。」


──デッキリストを見ても、いまだに信じられないマナベースですよね……


「実際3ターン目に《包囲の塔、ドラン》を出して4ターン目に《謎めいた命令》を撃って、対戦相手に『なんだこのデッキは?』という顔をされたのを覚えてます。あとこのカードはイラストも結構好きで。謎めいてる感じがしていて、そういう意味でもかなり気に入ってる1枚ですね。格好良さが違うベクトルでマジックっぽいっていうか、アートっぽいじゃないですか。そういうのが結構好きですね。」


 デッキビルダーとしても知られる八十岡は、自ら使用する青黒のデッキに毎回独特の調整を施すことに定評があり、それらは「八十岡のコントロール」、略して「ヤソコン」と総称されるほど、奇抜なカード採用や枚数配分が目立った。それでも八十岡は勝つのだ。《謎めいた命令》は当時きわめて強力な呪文で、打ち消し呪文として受動的に使えるだけでなく、4つのモードから多彩な選択肢が生まれるため、能動的に使っても強いことで知られていた。だが、八十岡ほどこのカードをうまく使えるプレイヤーは存在しなかったと言っても過言ではない。2011年のフィラデルフィアで、2012年のシアトルで、いくつもの正確無比な選択をこなしてきた。類まれなる未来予測の精度によって。


 「変幻自在」……それは常にポーカーフェイスを保ちつつ、最高のタイミングで対戦相手にとっての最悪の選択肢を平然と選び続けることができる八十岡にこそふさわしい言葉だ。カウンターマジックを使いこなせるからこそその崩し方も手に取るようにわかるため、時には攻撃的なデッキを使うこともいとわない。かと思えば、イラストにも興味を示し、アート性を見出す。無数の引き出しと、無限の多面性……八十岡自身が謎めいているのも当然だ。カードゲームにおいて強いプレイヤーというのは、本質を容易につかませないものなのだ。そんな八十岡のスタイルを表す1枚。そのカードが、思い出を力強く研磨した。


■思い出の5枚目:《対抗呪文》



──最後に《対抗呪文》ですが、いくつかイラストの種類があると思うんですけど、これは『テンペスト』のバージョンが一番良いんでしょうか?


「思い出深いっていう部分だと『テンペスト』ですね。イラストって意味だとマスターピースのも好きなんですけど。ちょうど始めたのがその頃で、最初はクリーチャーデッキだったりバーンデッキとか使ってたんですけど、知り合いとかがカウンターマシマシデッキを使ってたりしていじめられてた思い出があるんですけど(笑)そこから『インベイジョン』とか『メルカディアン・マスクス』のあたりで『ネザーゴー』っていうカウンターを使ったクロックパーミッションがあって、そのデッキを使って勝てるようになったというのがあります。」


「僕が打ち消し呪文を使う歴史がそこから始まるんですけど、そういう意味では、最初は《対抗呪文》を撃たれて負けていたけど、気づいたら打つ側になって勝ちはじめた。一つのマジックの転機としては大事なカードですね。あとは2001年のThe Finalsでベスト4に入ったときにも使っていて、僕が最初に大型で実績残せた大会がそこなんですけど、『カウンターモンガー』というデッキを使ってまして。そのときの《魂売り》っていうカードも候補にあったんですけど、現物がなくてこれにしました(笑)」


 今でこそトッププロとなった八十岡も、はじめは勝ったり負けたりを繰り返す普通のプレイヤーだった。そんな八十岡が最初に覚醒するきっかけとなったのが、マジックを代表するカードの一つである《対抗呪文》。相手のどんな呪文も後出しで打ち消すことができるこのカードを手に取ったことが、八十岡のカウンターマジックの原点だった。


 対人ゲームにのめり込む瞬間は人それぞれだが、やはり対戦相手に勝った瞬間というのは格別のものがある。しかもそれが、狙い通りの戦略によるものだとすればなおさらだ。《対抗呪文》はまさしくその体験を八十岡に与えてくれた。そしてそこから、気づけば30年。八十岡は「どうせお粗末な呪文だったんだろうさ。」というセリフが似合う、熟達の魔術師となった。魔術師の原点たる1枚。そのカードが、思い出をうやうやしく締めくくった。


■思い出を形にしてみて



──改めて、心の中に立ち上がってきた思いなどはありますか?


「この企画自体、自分の人生というか半生を振り返る機会だったりとか、昔を思い出させてくれる良い機会だなと思いました。なかなかそんなに昔って振り返らないじゃないですか。カードを色々探してるときにも『このときこれあったな』とか、結構ほかにも候補が色々あったりして。ほかの候補だった《ボーラスの工作員、テゼレット》とかも『このときこれで頑張ったな』とか。選んだ5枚だけでなく、探すっていう行為がすごく楽しかったというのがありますね。」


──ありがとうございました。


 写真や動画に残る瞬間だけが「思い出」ではない。
 八十岡はカードを通じてゲームに触れることで、思想や哲学を洗練させてきた。それらは人生を歩むうえでの指針にもなりうるものだ。どんなカードとともに歩んだか。どんなことを考えて大会に挑戦したのか。そのすべてが、未来の自分へとつながっている。


 そう、だから。


 カードには「思い出」が宿る。カードとともに歩んだどの瞬間も、未来の可能性の萌芽。そして、それこそが。
 自分という存在を後世へと残すタイムカプセルとなるのだ。



インタビュアー/ライター:まつがん(伊藤敦)



【YouTubeでインタビュー動画を公開中!】

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