2026/07/31

未来の自分のための活力

Kenta Harane

マジック:ザ・ギャザリング

Display Your Memories

カードには「思い出」が宿る。


調整の苦労。大会会場の風景。対戦相手との会話。ゲームの履歴。友人たちとの談笑。


そして何より、勝利の瞬間。カードを見るたびに、過去に経験した場面ごとのエピソードや、その時に抱いた鮮烈な感情が、持ち主にとって唯一無二のものとして、ありありと想起されるものだ。


そうした思い出を、もしも形にすることができたなら。それはどんな形をしているだろうか?


本企画「Display Your Memories」は、様々なTCGのプレイヤーに思い出の5枚を選出してもらい、その5枚に関する思い出を語ってもらう……というものだ。


今回はTCG『マジック:ザ・ギャザリング』のプレイヤー、原根 健太(はらね けんた)氏にお越しいただいた。


はたして原根は、どのような思い出を選んだのか。


■思い出のカードとの再会

──本日はよろしくお願いします。まずは簡単な自己紹介の方をお願いします。


マジックプロプレイヤーの原根 健太と申します。2016年ごろから約10年ほど、マジックの競技シーンで活動しておりまして、直近ですと昨年シカゴで開催された世界大会でトップ8に入った実績があります。今後もこういった活動を続けていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。」


──それでは、お預かりしたカードをお返しいたします。


「おぉ、すごい……鑑定された自分のカードを手に取るのは初めてなんですけど、特別な感じがしますね。」


──ぜひ、専用のショーケースに収めてみてください。


「わかりました。今回はテーマがあるので、それに沿ってやっていきたいと思います。まずはこれかな。そしてこれ……」


そうして5枚のカードを入れ終わり、原根の思い出がついに形となった。



──こちら手に取っていただいて、実際どういったお気持ちでしょうか?


「そうですね……今回カードを選定するときに、自分の中ではカードって、『戦うための装備』みたいな感じなんですけど、いざ持ってみると思い出がこう蘇ってくるというか……写真みたいな感じなんですよね。これまでカードをパーツとかそういう感覚で見てたんですけど、それが一気に捉え方が変わる印象を受けますね。このカードを使ったときの光景が頭に浮かんでくる気がしました。」




──テーマを設定されたとのことですが、それはどういったものでしょうか?


約10年という自分の活動の中で転機となった時期のカードをそれぞれ選んでいて、それを時系列順に並べたものになります。もっと細かな節目とかは色々あるんですけど、トーナメントで活躍する上では結果が求められるシチュエーションが多くて、なかでも特別な成果が挙げられたもの、最大値が取れたものとかがこのあたりになるのかなと。」


カードは黙して語らない。それでも、慈しむような視線を注ぐ原根の心は、自然と過去に跳んでいる。あの日の大会。あの日の決意へと。


■ 思い出の1枚目:《全知》


──原根さんと《全知》といえば、やはりグランプリ京都ですかね。まずは、こちらのカードについての思い出をお聞かせください。


「2015年くらいですかね……マジックを始めたばっかりの頃でして、とにかく最初は『名を上げたい、何か結果を残したい』という思いでずっと走ってきたところで、無我夢中でやってきたんですけど、ただやっぱりなかなか最初はもういろはというか、何していいかわからずがむしゃらにやってきた中で、初めて結果を掴み取ったのがこの大会でした。」


「そのとき、僕のマジック人生の中でも本当に衝撃的な試合展開というか、これ以上ないんじゃないかみたいな良い試合を配信卓で繰り広げることができて。相手のプレイヤーの方の知名度もあったんですけど、自分を知ってもらえるきっかけになりました。今でも『あの時の試合がすごくてマジック始めました!』と声をかけてもらえることも多くて、そういった意味で思い出深いというか、特別な1枚ですね。」


2015年の京都。まだプロプレイヤーとして走り出す以前、TCG『遊戯王OCG』で名を馳せた原根は、約2000名が参加した『マジック:ザ・ギャザリング』の大型大会でトップ8にまで勝ち残った。その準々決勝の対戦内容は、今でも語り草となっている。


《全知》とは、すべてのカードのマナ・コストの支払いを不要にするカード。いわば『マジック:ザ・ギャザリング』のゲームのルールを原根の出身TCGである『遊戯王OCG』にしてしまうわけで、それを互いに設置した状態での苛烈な呪文の応酬は、マジックだけにとどまらずTCG界隈で広く話題となった。


プロキャリア以前とはいえ、原根の約10年の実質的な出発点となった1枚。そのカードが、思い出を彩った。


■ 思い出の2枚目:《発明の天使》


──続いての《発明の天使》は、ワールド・マジック・カップで優勝されたときのものでしょうか。こちらのカードについての思い出をお聞かせください。


「ワールド・マジック・カップというのが3人チーム戦の大会だったんですけど、そのとき結成したチームが、僕を除いた2人がもう日本最強、ナンバーワンツーみたいな2人と組ませてもらって、当時から下馬評としてもすごく高くて『このチームで優勝できないなら無理なんじゃないか』とまで言われてる中、期待とは裏腹にすごくプレッシャーになっていて、なんとかしないとと取り組んでいく中で、色んな苦しみとか葛藤とかがある中で出せた成果というのが一つ壁を乗り越えた感覚がして。嬉しい結果を得られた1枚かなと思ってます。」


「このカードを入れたデッキは《王神の贈り物》っていう別のキーカードを持ったデッキだったんですけど、世界大会だったので生配信で試合が映ったんですが、僕のゲームが映るのが2ゲーム目からが多くて、2ゲーム目からはこのカードでずっと戦うことが多くて、視聴者の印象がこればっかりみたいで。天使のカードなので『エンジェル原根』みたいな感じで呼んでもらえることも多くて。デッキの主役よりもこっちの方が自分の中で特別になったなと。でもそういう試合ができて良かったなと思います。実際自分の中でも2本目以降の戦いの組み立てはこのカードを軸にしていて、練習結果を反映できたというのもあるし、視聴者の方にもちゃんとそう捉えてもらえたのが嬉しかったですね。」


2017年、フランスで開催された国別対抗のワールド・マジック・カップ。そこで原根は、日本最強クラスのプレイヤー2人とチームを組むことになった。使うデッキはチーム内では3番手の強さ。だが他の国の1番手や2番手のデッキ相手にも勝利をもぎ取る必要があった。そこで原根は独自の工夫、まさしく「発明」でチームに貢献することで立派に役目を果たし、優勝という最高の結果に辿り着いた。


マジックプレイヤーとしての先輩2人から薫陶を受けつつも、彼らに並び立つ資格があると証明したことが、プロキャリア初期に原根が成長を加速させる転機となった。それを象徴する1枚が、思い出に恭しく収められた。


■ 思い出の3枚目:《集合した中隊》


──続けて、《集合した中隊》はプレイヤーズツアーで優勝されたときのものだと思いますが……見ましたか?このカードのグレーディングの数字を。


「見ました。10段階で5でしたね(笑) ただ、僕の中ではこの5は全然悪い数字じゃないです。それだけ歴史がある特別な1枚だなっていう、『自分の1枚だな』という感じで捉えてます。それこそこのカードを使って結果を残したのは2020年ごろだと思うんですけど、ただ、その時までにもずっと使ってるんですよね。このカードが出た頃からすごく大好きで。打ったときに流れが変わる1枚が大好きなんですけど、このカードがまさにカードを一気に2枚出せる、打つと形勢が動くようなカードで、すごい好きでずっと使ってて。ただ、ものすごくヘタクソだったんです(笑)


「打ち方とかデッキに入れるカードの選択とかが、最初てんでダメで。それこそプロ入りしたばかりのときは、周りのプレイヤーにも叱咤されて。『もっとうまくプレイできる』とか、『これに頼りすぎてる、手札のカードをもっと使った方が良い』とか、色々と指導を受け続けながらも、いよいよ自分の中でも『ちょっと上手くなってきたかもしれない』と思えるようになってきたタイミングで、キャリアの中で最も良い成果を出せて。『ああ、成長したな』と。なので、5に至るまでみっちり使い込んできたのも、自分の中で特別な意味合いがあります。本当に、勲章みたいなものですかね。4~5年くらい歩みをともにしてきましたから。」


2020年に名古屋で開催された競技イベントで、原根はまた一つ自分の殻を破った。選択肢が多くあるということは、選択ミスをする可能性も増えるということ。それでも最適な選択肢を選べた際のバリューは計り知れない。カードゲームのプロであるということは、最も多くの選択肢を用意しつつも、そこで選択ミスをしない精神力と実力を身に着けるということだ。《集合した中隊》という、プレイのタイミングやカードの選択において無限の選択肢が発生するカードと向き合い続けたことで、原根はついにその境地に至ることができた。


このときの大会レポートで原根は、「マジックは情熱」という名言を残している。使い込んだカードは、まさしく情熱の証。そんな1枚が、思い出に華を添えた。


■ 思い出の4枚目:《策謀の予見者、ラフィーン》


──4枚目の《策謀の予見者、ラフィーン》は、チャンピオンズカップファイナルで優勝されたときのものですね。こちらのカードについての思い出もお聞かせいただけますでしょうか?


「2024年、一昨年になりますか。このカードに関しては、このくらいの時期になってくるともうプロとしても8~9年くらいのキャリアを積んできた中で、どんな分野でもそうだと思うんですけど、成長の度合いって0~40とか、50~70くらいだとぐんぐん行くんですけど、技術力がある程度固まってくると、1点2点上げるのが大変になってくる時期が来るんですよね。成長の鈍化と言いますか、まさにそうなっている頃で、練習はするんですけど、『これ以上どうやって自分の技量を上げればいいかわからない。ただ、まだ周囲との力の差は感じる』みたいな頭打ちの状態で、『これ以上伸ばし方がわからないな』と、色々と取り組みとか練習を工夫していく中で、天啓じゃないですけど、『もっと視点を変えてみたらどうか』と思い至りまして。」


「このカードは3マナで、手札を入れ替える効果なんですけど、3マナなんで3ターン目に出すじゃないですか。でもそうすると、どの手札がこの後必要になるのか選択しきれなくなるんです。僕はその選択の精度をあげようと頑張ったりしてたんですけど、何度やっても裏目ってしまう。うまくいかない……って悩んでいたんです。そこで、『もっと出すターンを遅らせたら、何が必要かはっきりするんじゃないか』と。ゲーム履歴や状況が進んでるので、盤面の見えているカードとか相手の手札内容などの増えた情報で、必要なカードがはっきりするはずだから、そのくらいまで遅らせたらいいんじゃないか……と仮説を立ててやってみたら、ものすごくうまくいったんです。


「『3マナのカードだから3ターン目に出しちゃえばいいんだ』じゃなくて、もっと全体で見た奥深さというか、ゲーム全体の組み立てみたいなものをイメージしたときに、しかもそれがちゃんと勝率につながったというのが、本当に上のレベルに行った中でのブレイクスルーで。8年9年やった中でのブレイクスルーみたいなのが自分の中で衝撃というか、『あ、まだこのゲーム先あるな』『まだまだやれるな』『これから先もっと成長していけるんじゃないか』みたいな期待感と言いますか、煮詰まった中での明るい展望が見えたというのが、自分の中での特別な1枚です。」


2024年に名古屋で開催された大会で、原根はさらに壁を越えて勇躍する。世界大会には継続して参加できているものの、望んだ実績はなかなか得られない。プロの世界で超えられない差があるとき、多くの人は才能という言葉で片づけてしまいがちだ。だが原根はそれでは納得しなかった。人生で後悔しないために、前に進み続けることを選んだ。


その取り組みはきっと、地獄のように苦しかったはずだ。常識を疑い、変えられるものは一つずつすべて変えてみて、結果にカードたった1枚分の差が生まれないか検証する。だがそうして苦しみ抜いたからこそ、たどり着いた頂点。そのかけがえのない苦しみと喜びを生んだ1枚が、思い出を色濃く縁取った。


■ 思い出の5枚目:《忌まわしき眼魔》


──こちらが最後の1枚ですね。昨年、プロツアー『霊気走破』で念願のトップ8に入賞された際の、最も思い入れの強いカードと思いますが。


「そうですね。これまで出してきた4枚のカードは、それぞれグランプリ、ワールド・マジック・カップ、プレイヤーズツアー、チャンピオンズカップファイナルっていうそれぞれの大会において優勝などの良い成績を収めたカードなんですけど、このカードは『プロツアー』と呼ばれる、まあ世界大会ですね。そのイベントのトップ8を決めたカードでして。僕がマジックを始めたのはプロツアー、世界大会で活躍している選手たちを見て、『あんな立派な世界で活躍して、名を上げたいな』と思って始めたんですけど、10年やってる中でこの大会でだけは全然結果が出なくて、歯がゆい思いをしてまして。」


「その間にも一緒に練習してきた人たちは続々とトップ8に入ったりして。中には僕より後に始めたプレイヤーもトップ8に入ったりして、一人だけ取り残されてる感覚で。しかも同じ練習をしてるのに、同じ時間、同じ相手と同じ要領でやっているのに、自分だけ結果が出ない。最初のうちは『いずれ自分も』とか『また今度機会が回ってくるだろう』と思ってたんですけど、回数と年数が重なってくると『明らかに足りてないんだな』っていうのが結果として返ってくる。そうなってきたときに、辛く苦しい時間が長く続いてきて、『限界だな』『ここまでなのかな』という風に感じてきて。やっぱりもう10年という時間が自分の中に重くのしかかってきて。やればやるだけ差を感じるようになってしまう中で、『そろそろ厳しいんじゃないかな』と思っていたところでの出せた結果だったので、『無駄じゃなかったんだな』というのをすごく実感した1枚で。直近ながらも、これまでのすべてが乗っかっている、集大成という感じのカードですね。」


2025年、シカゴで開催された世界大会で、原根はプロキャリア10年目にして長年の目標だったトップ8入賞を果たした。それはマジックに憧れ、マジックに焦がれた原根の10年間の取り組みが報われた瞬間だった。


無数のスポットライトとカメラに囲まれたテーブルで、1対1でカードゲームをする。その最高の舞台に自分も立ちたいという初期衝動が、原根をここまで走らせた。悩むことも挫けることもあった。それでも諦めることなく夢を実現した1枚が、思い出の結びを飾った。


■ 思い出を形にしてみて


──約10年のキャリアになぞらえて5枚のカードを選んでもらいましたが、改めて心の中で立ち上がってくる思いや、あるいは今後プレイヤーとしてやっていく中での新しい目標などはありますでしょうか?


写真のアルバムを前にしたような感覚がありますね。それこそプレイヤーとして赤ちゃんだった時代から……拙かったことや、見返したらプレイの精度が荒かったりとか、血気盛んな感じがしたりとか、段々落ち着いていくんですけど、熱い頃も良いなとか思ったりして。そのときの気持ちとかが蘇ってくる感じです。当時の光景が浮かんでくる気がするので……家にトロフィー棚があるんですけど、そこに飾ろうと思っていて。そのときトロフィーを得たカードも手前にあると良いなと思って、それも意識して5枚のカードを選びました。《全知》などは優勝ではなかったので、自分の中でのトロフィーという風に考えたいかなと。」


「それで、そういった思いをゲームの中で作れるのは良いことだと思っていて。今後もそういったものに出会いたい、そういったものを目指して、作り上げたいみたいな感覚です。何かしらのきっかけとか節目があるからこそ成長を実感する、『前に進めてるな』っていう感覚を得ることができると思っているので、こういったものに出会うべくして活動するのが良いのかなと思っています


──ありがとうございました。


原根は常に目標を言葉に出し、そのときに想像した未来の自分を乗り越えられるように行動してきた、有言実行を体現するプレイヤーだ。だからこそ成長を繰り返し、マジックを始めた頃から何段階も強くなり続けることができた。


だが、成長とは新しい自分へと生まれ変わるということでもある。脱ぎ去り捨て去った過去の自分は、記憶の彼方へと容易に消えていってしまう。それでも、そのときに記憶に錨があれば、思い出すことができる。何のための成長か。どうやって成長してきたのか。過去の選択の記憶によって、現在の選択の精度を高めることが可能となる。


そう、だから。


カードには「思い出」が宿る。カードとともに歩んだどの瞬間も、本気で生きてきた証。そして、それこそが。


未来の自分のための活力となるのだ。




インタビュアー/ライター:まつがん(伊藤 敦)



【YouTubeでインタビュー動画を公開中!】


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